自社の存亡に関わるさまざまな課題に直面した取締役会は、事業の成長と継続を重視するようになってきた。これは、ステークホルダーに対する責任の範囲が拡大する中、株主価値を創造しようと細心の注意を払っていることの表れである。
株主アクティビズム、経営者の報酬、規制コンプライアンス、戦略的パフォーマンスなどの複雑な問題がコーポレートガバナンスに変化をもたらし、取締役会が必要とするアサーティブネス(意見表明)やアジリティ(機敏性)がより重視されるようになってきた。
例えば、英国会計基準の設定主体である英国財務報告評議会(FRC)は最近、新しい会長とCEOを迎え入れた。こうした変化は、組織がビジネス界での存在感をより高めようとする重要な局面で見られる。新たに就任したリーダーたちは、より対応力やサポート力の高い規制環境をつくり出そうとしている。彼らが重視するのは「聴く姿勢」を持つことだ。これはFRCが各企業のニーズや課題により前向きに向き合い、理解しようとしていることの表れだ。
ビジネスの世界は近年、株主や議決権行使アドバイザーを偏重するあまり、バランスを欠いていたが、ここへきてそれを正そうとする動きが出てきた。FRCは厳格ながらも合理的なガバナンス基準を目指している。これにより、インフレやコストの上昇、利益率の低下、人材不足、ネットゼロ・コミットメント、地政学的緊張などの課題に対して、取締役会が機動的に行動できるようになってきた。
「コンプライ・オア・コンプライ」のコーポレートガバナンス
世界中の多くの国で、企業は「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守せよ、さもなくば説明せよ)」というコーポレートガバナンス・ルールの下で活動している。つまり、一定の基準や慣行を遵守するか、そうでなければ遵守しない理由を公に説明しなければならない。この手法は柔軟性を許容するとともに、すべての組織に適した万能のやり方はないと認めるものである。
しかし近年、英米やEUの投資家はコーポレートガバナンスに対して、より厳しいアプローチをとるようになっている。株主アクティビズムの高まり、投資家のリスク回避志向の増大、規制の強化に押される形で、「コンプライ・オア・コンプライ(遵守一辺倒)」とでも言うべきモデルが登場してきた。
取締役会の抵抗
数多くの課題が立ちはだかる複合的な危機に直面する取締役会は、この困難な時期に企業としての強さを維持するためには、利益創出と成長を優先しなければならないことを知っている。このような取締役会は、自社の戦略的目標やリーダーシップの安定性にとって有害になりかねないとして、株主や議決権行使アドバイザーからの圧力に抵抗し始めている。
この傾向が特に目立つのは経営者報酬の問題である。ロンドン証券取引所グループ(LSEG)は先般、CEOの報酬を2倍にしたことで話題になった。経営トップ人材をめぐる世界的な競争、とりわけ米企業との競争で後れをとらないようにするなど、組織を取り巻く課題を受けての判断であった。この決定により、LSEGは優秀なリーダーを惹きつけ、引き止めるための競争力を保つことができる。
同様に、医療機器大手のスミス・アンド・ネフューはCEOの報酬を30%上げたが、これはただちに株主の執拗な抵抗を受けた。同社はリーダーの交代が激しく、この5年で4人のCEOが就任している。今回の報酬アップは、同社が世界的な人材獲得競争に乗り出す意思があることを示しており、ひいては戦略の安定性・継続性を実現しようとする試みでもある。
リスク許容度の高まり
取締役会はこれまでよりも勇敢な姿勢を示し、「スチュワード」としての役割を受け入れ、過度なリスク回避から脱却しようとしている。
こうした変化は、現在の「コンプライ・オア・コンプライ(遵守一辺倒)」式のコーポレートガバナンス・コードに対する抵抗として表れている。しかし、サステナビリティやDEI(多様性、公平性、包括性)といった問題が蔑ろにされているわけではない。取締役会はむしろESG(環境、社会、ガバナンス)を取り入れた総合的な方法で企業統治に臨み、同時に財務的な安定・成功を実現しようとしている。
勇気ある取締役を見いだす
利益と、企業のパーパスとのバランスをとることの重要性は、取締役に広く認識され始めている。こうした取締役は、企業の利益を守りつつ、株主アクティビズムにも巧みに対処している。株主の利益に沿った戦略を先回りして導入する取締役も増えており、表立った圧力にさらされる前に変革を実行することも少なくない。
当社は30カ国を超えるグローバルなネットワークを活かし、こうした常に変化する課題に対応できる取締役を見きわめて紹介します。これにより、クライアントの取締役会が将来の課題や要求事項に効果的に取り組むことができるよう支援します。
_________________________________________________________
さらに詳しく知りたい方は、 こちらの専用フォームからお問い合わせください。専任コンサルタントよりご連絡いたします。
Follow us
Join us on our social media channels and see how we're addressing today's biggest issues.