後継CEOを指名する際、企業が陥りがちな5つの過ちとは何か。米国ニューヨークとアトランタでそれぞれ活躍するパートナー兼リーダーシップアドバイザリープラクティス・ヘッドのロバート・サターホワイト博士とマネージングパートナーのマッツ・オラ・バイデルが解説する。
企業が不適格なCEOを任命すると、組織の士気や生産性、評判、文化、そして収益にまで悪影響を及ぼし、大きな負担がもたらされる。財務的観点からだけでも、予定外のCEO交代によって、世界の株主たちは年間1,120億ドルもの利益を失っている。にもかかわらず、多くの企業でCEOの後継者育成計画は手つかずのままである。主な原因は、候補者の選別に際しての外部ベンチマークの欠如、過去の実績のみに基づく評価、未熟な候補者、自信過剰な経営幹部、そして不十分な評価データへの依存にある。
今回は、なぜこうした要素が企業にとっての大きな負担となるのか、また、取締役会がこれらの問題に適切に対処することで、いかに適格なCEOを任命できるのかを解き明かしていく。
外部の人材に対するベンチマークの欠如
企業にとっての理想は、組織内でCEO後継者を育てることであろう。社内の候補者は、すでに組織についての知識が深く、その文化と価値観に精通し、継続的かつ安定的に成長するためのあるべきリーダーシップを理解しているからである。
同時に多くの企業は、社外の人材市場を勘案せずに、社内の候補者のみに依存しがちである。その結果、彼らは「どのようなCEOが望ましいか」についてのベンチマークとなるものを持たず、果たして社内の人材がビジネスにおける成功に必要なリーダーシップの標準を、満たしているのか、超えているのか、または達していないのかを正確に評価できなくなる。
外部候補者向けのベンチマークを設定して初めて、取締役会は今の組織に足りないリーダーシップスキルを特定し、彼らの持つ新たな視点や経験が評価に値するかを適切に検討できるようになる。
取締役会がCEO候補者に必要なベンチマークを設定すると、社内候補者を評価する際にもメリットがある。彼らがそれぞれ持つリーダーシップの中身や経験、業績を市場の人材と比較できるようになるからだ。何よりも、組織の内外を問わず、急速に変化するビジネス環境において組織を率いるために、経験豊富で最適なCEOを採用することが、組織の競争力維持にもつながる。
過去の実績のみに基づく採用の落とし穴
CEO候補者の評価は、各人のスキルや競争力、ポジションへの適性、能力の高さなどに加え、会社の長期戦略に照らして行われなければならない。言い換えれば、企業が今後3年から5年の間に直面するであろう変化や課題を予測した上で、その取り組みを推進し、サポートするためには、CEOがどのようなリーダーになるべきかを理解する必要がある。
ところが多くのケースで、取締役会が候補者の過去の業績や経験ばかりに注目し、将来複雑で先の見えにくい状況に直面した際、柔軟に対応できる力を備えているかという点については、軽視されてしまう。そのようにして選ばれた新CEOは、素早く喫緊の課題に対応し、来るべき課題を予測できるリーダーであるよりも、過去に成功したやり方に固執するリーダーになりかねない。
候補者の素早い対応力や変化への適応力、革新的な発想、そして長期ビジョンを構築する力こそ、CEOの適性を見極める重要な要素であるはずだ。
適格な内部候補者の不在
あまりにも多くの企業が、CEO退任後の空席はすみやかに現経営幹部の中から埋められるはずだと考えている。これは、候補者がこれまで経営メンバーの一員であったという事実だけで、「当然、新CEOとしての必要な能力と経験を備えているはず」と取締役会が断定してしまうからであろう。
実際は往々にしてその逆である。つまり、経営幹部に選ばれた時点で、自分にはもはや能力開発やコーチングは不要だと信じてしまう人が多いのだ。
特に、企業が外部候補者を採用する可能性を考慮しない場合、CEOの地位に進むには時期尚早であったり、成長の余地を残したままのCEO予備軍を取締役会が多数抱える羽目になる。したがって、社内におけるリーダーシップの育成とエグゼクティブメンバー向けのアセスメントの実施は、トップの役割に就く準備ができている者とそうでない者とを判別するために重要なプロセスである。
特に重要な点は、CEO後継者の選択のためのアセスメントをそこで終わらせず、最終的にCEOに選ばれなかった候補者に対しても、さらなる成長を促すような行動につなげることである。アセスメント後の詳細なフィードバックを本人に提供する時間を設けなければ、不満を抱いた経営幹部が組織を去るリスクが生じ、本来不要であったはずの高額な採用コストを負担せざるを得なくなるだろう。
自信過剰な経営幹部にどう対応するか
多くの経営幹部は「自分にはCEOになる能力がある」と信じている。彼らの自信に流されずにその適性を厳密に見極めなければ、組織を成功に導く適格なCEOを選ぶ代わりに、単に与えられた組織の役割で機能してきたリーダーの、過去の実績を評価するだけになってしまうだろう。
これは、あくまで組織の歯車としての視点から戦略を構築し、実現する「昨日の枠に留まらないCEO」をもたらすリスクにつながる。
組織の歯車としての志向しか持たない人材は、より広範かつ組織全体を巻き込むような課題やチャンスに対応する上で必須の体系的な思考や認識を欠いているため、サイロ化した思考に陥ってしまう。
こうしたアプローチで選ばれた新しいCEOは、同様にCEOのポジションを競っていた元同僚たちからの支持を得られず、経営陣の団結や協力の欠如にさらされるだろう。
このようなリスクを軽減するためには、組織が日常的にリーダーに対して 体系的に考え行動 するように促すリーダーシップ育成を継続して行い、リーダーとしての適切な振舞いを評価し、そのためのインセンティブを与えるような文化を醸成すべきである。たとえば、経営幹部の業績を評価する際に、彼らが担当するビジネスユニットの成功に加えて、エグゼクティブリーダーとしての業績をも評価し、それ相応の報酬を提供することが望ましい。また、将来リーダーの役割にどのような変化が生じるかを予測し、経営幹部との協業によって、支援的かつ建設的な方法でリーダーシップの育成計画を立てる必要があるだろう。
CEO後継者の適性を見極めるために十分なデータを得るには
新たなCEOを選出する際に、取締役会が依然として印象と直感に頼ってしまうケースは多い。その結果、候補者選択の基準が本来の道筋から外れてしまう。候補者の評価プロセスは、厳格かつ体系的で標準化されたものでなくてはならないし、候補者の適性は、その役割や直接関わるチーム、組織全体の状況にそれぞれ照らし合わせて評価されるべきだ。このような適切な手法をとれば、取締役会は常に最適なCEO後継者を選定できる。
候補者をCEOとしての役割に照らして比較検討するには、あらゆる候補者に一律に適用される基準を確定し、過去の成功と将来の可能性の双方を考慮した上で適性を評価する必要がある。
このアプローチにおいては、候補者の心理測定および行動特性に基づいた詳細な面接を行うことが重要である。候補者の性格特性や認知能力、リーダーとしてのポテンシャルとそれが発揮される機会、逆にそれによってもたらされるリスクや、期待される振舞いから逸脱してしまう可能性といった、さまざまな観点からの洞察が得られる。その結果、各候補者の詳細なプロファイルによって、彼らのCEOとしての適性についての十分な情報に基づいた意思決定を行うことができる。
オジャーズ ベルンソンは、実効性と確実性に富んだ後継者戦略の策定をサポートしています。取締役会議長、指名委員会を含めた取締役会、および人事担当役員との協力により次期CEOに求められる要件を明確にし、社内候補者の人材評価を行います。
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